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平方剰余の相互法則のGauss周期による証明

本記事は日曜数学 Advent Calendar 202312日目の記事です。

昨日はキグロさんによる "書籍『笑わない数学』裏話" でした。

 

 

今回のテーマは平方剰余の相互法則である。

 

まず平方剰余とはなにかについて説明しよう。

定義 (平方剰余)
p を奇素数とする。
p と互いに素な整数 a に対して  x^2 = a \mod pとなるような整数 x が存在するとき ap を法として平方剰余であるといい、そうでない場合は ap を法として平方非剰余であるという。
 
ここでうまくこの平方剰余性を表すことのできる関数を次で定める。
 
定義(Legendre記号)
以下で定める関数をLegendre記号という。
 \left(\frac{a}{p}\right) =\begin{cases}1 \hspace{1.75em} (a\text{が}\bmod p\text{で平方剰余}) \\-1 \hspace{1em} (a\text{が}\bmod p\text{で平方非剰余})\end{cases}
 
ここでLegendre記号は
\left(\frac{a}{p}\right)\equiv a^{\frac{p-1}{2}} \mod p
という表示を持つことが知られている。よって
\left(\frac{ab}{p}\right)=\left(\frac{a}{p}\right)\left(\frac{b}{p}\right)
が成り立つことが分かる。
 
以上をもとに今回の主役である平方剰余の相互法則を紹介する。
 
平方剰余の相互法則
p,q を異なる奇素数とすれば
\left(\frac{q}{p}\right)=(-1)^{\frac{p-1}{2}\frac{q-1}{2}}\left(\frac{p}{q}\right)
が成り立つ。
 
 
平方剰余の相互法則を示すには
\left(\frac{q}{p}\right)=\left(\frac{(-1)^{\frac{p-1}{2}}p}{q}\right)
を示せばよい。なぜならこれが正しければ、上に書いた定理から
\left(\frac{q}{p}\right)=\left(\frac{(-1)^{\frac{p-1}{2}}}{q}\right)\left(\frac{p}{q}\right)=(-1)^{\frac{p-1}{2}\frac{q-1}{2}}\left(\frac{p}{q}\right)
より平方剰余の相互法則が得られるからである。
 
 
今回はGauss周期と呼ばれる 1 の冪乗根の線形和で定義される数を用いた鮮やかで面白い証明方法を紹介する。さらに最後にこの証明に用いられていたテクニックからGaussがいかに時代を先駆けていたかについてを語る。
 

Gauss周期の定義と性質

整数 a に対しそれを奇素数 p を法として考えるとき、 \overline{a} とかくとする。このとき、p を法とした世界 \mathbb{F}_p=\mathbb{Z}/p\mathbb{Z}=\{\overline{0},\overline{1},\cdots \overline{p-1}\}\overline{0} 以外の集合 \mathbb{F}_p^* はある整数 g により生成される。つまり

\mathbb{F}_p^*=\{1,\overline{g},\overline{g}^2,\cdots,\overline{g}^{p-2}\}

とできる。この時 p-1 の約数 d に対して

H_d=\{1,\overline{g}^d,\overline{g}^{2d},\cdots\overline{g}^{(\frac{p-1}{d}-1)d}\}

と定める。これはつまり H_d=\mathbb{F}_p^{*d} としているのである。

例えば d=2 の時を考えると

H_2=\{1,\overline{g}^2,\overline{g}^{4},\cdots,\overline{g}^{p-3}\} , \overline{g}H_2=\{\overline{g},\overline{g}^3,\overline{g}^{5},\cdots,\overline{g}^{p-2}\}であるので H_2 \cap \overline{g}H_2 = \emptyset でさらに

\mathbb{F}_p^*=H_2 \cup \overline{g}H_2

と分かる。

 

 \zeta = e^{\frac{2\pi i}{p}} = \cos\frac{2\pi}{p} + i\sin\frac{2\pi}{p} とする。

この時次のようにGauss周期を定める。

定義(Gauss周期)
整数 ap-1 の約数 d に対して
\lbrack a \rbrack_d = \sum\limits_{\beta\in H_d} \zeta^{\overline{a}\beta}
により定めたものを d 次のGauss周期という。
ただし、\gamma\in\mathbb{F}_p に対し \zeta^{\gamma} とは \gamma の適当な代表元 c\in\mathbb{Z} に対して \zeta^{c} と定めるとする。これは \zeta1p 乗根であることから定義可能である。

 

ここでGauss周期は

a^{-1}b \in H_d \iff \lbrack a \rbrack_d = \lbrack b \rbrack_d

を満たす。よって

\mathbb{F}_p^*=H_2 \cup \overline{g}H_2

であったことから、2次のGauss周期は \lbrack 1 \rbrack_2\lbrack g \rbrack_2\lbrack 0 \rbrack_2 のみであることが分かる。

よって、a\in H_2 は定義より ap を法として平方剰余であることと同値なので \lbrack 1 \rbrack_2 = \lbrack a \rbrack_2 となることは ap を法として平方剰余であることと同値である。また、 ap を法として平方非剰余であることは \lbrack g \rbrack_2 = \lbrack a \rbrack_2 となることと同値であることも分かる

以上より ap を法として平方剰余であるかどうかという問題は \lbrack 1 \rbrack_2 = \lbrack a \rbrack_2 かどうかというGauss周期の言葉に書き換えることができた。

 

ここからは 2次のGauss周期の満たす性質について紹介する。

 

まずは

1 + \zeta + \zeta^2 + \cdots + \zeta^{p-1} = 0

という関係式を用いれば

\lbrack 1 \rbrack_2 + \lbrack g \rbrack_2 = -1

と分かる。

 

また、次の定理が知られている。

定理
qp と異なる素数とすると q の倍数 a,b が存在して
(\lbrack 1 \rbrack_2)^q - \lbrack q \rbrack_2 = a + b\lbrack 1 \rbrack_2
と表せる。

 

次の定理は非常に重要で特に面白い定理である。(面白さの理由は最後の節にて解説する。)

定理(2次のGauss周期の基本定理)
方程式
\varphi_2(x) = x^2 + x - \frac{(-1)^{\frac{p-1}{2}}p-1}{4}
\lbrack 1 \rbrack_2\lbrack g \rbrack_2 を解に持つ。

 

この定理より \lbrack1\rbrack_2 を解に持つような多項式 \varphi_2(x) で割り切れることもわかる。

 

今回は基本的に証明を省略したが、どれもGauss周期の性質を存分に使った証明であり面白いので是非参考文献の本を参照してほしい。

 

平方剰余の相互法則の証明

いよいよ平方剰余の相互法則の証明に入る。
まず示すべき主張を再確認する。
 
平方剰余の相互法則
p,q を異なる奇素数とすれば
\left(\frac{q}{p}\right)=(-1)^{\frac{p-1}{2}\frac{q-1}{2}}\left(\frac{p}{q}\right).
が成り立つ。
 
またこれを示すためには
\left(\frac{q}{p}\right)=\left(\frac{(-1)^{\frac{p-1}{2}}p}{q}\right)
を示せばよいのであった。
これを前節を用いてGauss周期の言葉で翻訳すると p を法として q が平方剰余であることと \lbrack q \rbrack_2=\lbrack 1 \rbrack_2 は同値であり、さらにq が平方非剰余であることと \lbrack q \rbrack_2=\lbrack g \rbrack_2 は同値になるので
\lbrack q \rbrack_2=\lbrack 1 \rbrack_2 \Longrightarrow \left(\frac{(-1)^{\frac{p-1}{2}}p}{q}\right) = 1
\lbrack q \rbrack_2=\lbrack g \rbrack_2 \Longrightarrow \left(\frac{(-1)^{\frac{p-1}{2}}p}{q}\right) = -1
の二つが示されれば良いことが分かる。
 
証明:
\lbrack q \rbrack_2=\lbrack 1 \rbrack_2とする。なら前節から q の倍数である整数 a,b により
(\lbrack 1 \rbrack_2)^q - \lbrack q \rbrack_2 = (\lbrack 1 \rbrack_2)^{q} - \lbrack 1 \rbrack_2 = a + b\lbrack 1 \rbrack_2
と書ける。よって
f(x) = x^q - x - (a + bx)
\lbrack 1 \rbrack_2 を解としてもつ方程式である。したがって2次Gauss周期の基本定理より f(x)
\varphi_2(x) = x^2 + x - \frac{(-1)^{\frac{p-1}{2}}p-1}{4}
で割り切れることが分かる。
ここでこれらの方程式の各係数達を q を法として考える。多項式 s(x) の各係数を q を法として考えたものを \overline{s}(x) とかく。整数にも同じ表記を用いる。すると a,bq の倍数であったことから
\overline{f}(x) = x^q -x
\overline{\varphi_2}(x) で割り切れるという風に言い換えられる。ここで \overline{f}(x) の解は高々 q 個であることから、Fermatの小定理よりその解は \mathbb{F}_q のすべての元でありそれらで尽くされることが分かる。特に \overline{\varphi_2}(x) の解も \mathbb{F}_q の元と分かる。今解の公式から \overline{\varphi_2}(x) の解は \overline{2}^{-1}(-\overline{1}\pm\sqrt{(\overline{-1})^{\frac{p-1}{2}}\overline{p}}) であり、 qp と異なる奇素数なことに注意すれば
\sqrt{(\overline{-1})^{\frac{p-1}{2}}\overline{p}}\in\mathbb{F}_q^*
と分かる。よって (-1)^{\frac{p-1}{2}}p q を法として平方剰余である。
次に \lbrack q \rbrack_2=\lbrack g \rbrack_2 とする。なら \lbrack 1 \rbrack_2 + \lbrack g \rbrack_2 = -1 よりある q の倍数 a,b によって
(\lbrack 1 \rbrack_2)^q - \lbrack q \rbrack_2 = (\lbrack 1 \rbrack_2)^{q} - (-1 - \lbrack 1 \rbrack_2) = a + b\lbrack 1 \rbrack_2
と表せる。よって
h(x)= x^q + x + 1 -(a + bx)
と置くとこれは \lbrack 1 \rbrack_2 を解に持つので \varphi_2(x) で割り切れる。同様にこれらの多項式q を法として考えると
\overline{h}(x) = x^q + x +\overline{1}
である。もし \overline{\varphi_2}(x)\mathbb{F}_q 上に解を持つとしてそれを \alpha とすれば
\alpha^q + \alpha + 1 = 0
を満たすのでFermatの小定理から \alpha^q = \alpha となり
2\alpha+1=0
となる。よって \alpha = \overline{2}^{-1}(\overline{-1}) である。一方で \overline{\varphi_2}(x) の解を解の公式より計算すると  \overline{2}^{-1}(\overline{-1} \pm \sqrt{(\overline{-1})^{\frac{p-1}{2}}\overline{p}}) であるので (\overline{-1})^{\frac{p-1}{2}}\overline{p} = \overline{0} を得るが pl は異なる素数であったのでこれは矛盾。よって \varphi_2(x)\mathbb{F}_q 上に解を持たない。 つまり  \sqrt{(\overline{-1})^{\frac{p-1}{2}}\overline{p}}\not\in\mathbb{F}_q であるので (-1)^{\frac{p-1}{2}}p は q を法として平方非剰余である。
(証明終)
 

代数学から見たGaussの証明

さて、今回の証明の鍵となったポイントは次の2点である。

Point 1. 2次のGauss周期の基本定理。
Point 2. 有限体 \mathbb{F}_q でのGauss周期の値について考察する。
ここでそれぞれの考察を現代数学における視点から見てみよう。
Point 1.
まず驚くべきは平方剰余に関する問題を解くときに1の冪乗根に注目するという点である。詳しく言うと我々は今 \sqrt{(-1)^{\frac{p-1}{2}}p} が有限体 \mathbb{F}_q に含まれているかどうかという議論をする為に \sqrt{(-1)^{\frac{p-1}{2}}p} を1の冪乗根の線形和であるGauss周期を用いて書き考察をしたのだが、「平方根が1の冪乗根達の線形和で書ける」という事実が驚きである。
この驚きの事実は現代ではKronecker-Weberの定理というより一般化された姿として知られている。
 
定理(Kronecker-Weberの定理)
任意の \mathbb{Q} 上有限次Abel拡大は円分体の部分体である。
 
ここで整数 m に対して \mathbb{Q}(\sqrt{m})/\mathbb{Q} は有限次Abel拡大なので、ある n が存在して \mathbb{Q}(\zeta_n) に含まれる。よって \sqrt{m}\zeta_n 達の線形和で書けるのである。
 
Point 2.

次に注目すべきは方程式 \overline{f}(x)=x^q-x である。今回の証明ではGauss周期\overline{f}(x) の解であることからそれが \mathbb{F}_q の元であることを示したのであった。このテクニックは現代ではGaloisの基本定理として説明ができる。実際、 \alpha \in \mathbb{Z}\lbrack\zeta\rbrack として q の上にある \mathbb{Z}\lbrack\zeta\rbrack の素イデアル \mathfrak{Q} をとる。ここでは \mathbb{Z}\lbrack\zeta\rbrack の元に対して \mathfrak{Q} を法として考えるときに上線をつけるとする。ここで \overline{f}(\overline{\alpha})=0 が成り立つのなら

\overline{\alpha}^q=\overline{\alpha}

となる。これは \kappa(\mathfrak{Q}) = \mathbb{Z}\lbrack \zeta \rbrack / \mathfrak{Q}\kappa(q) = \mathbb{F}_q と書けば  \overline{\alpha}\mathrm{Gal}(\kappa(\mathfrak{Q})/\kappa(q)) の生成元であるFrobenius写像において不変であるということを意味する。よってGaloisの基本定理より \overline{\alpha} \in \mathbb{F}_q であることが分かるのである。

 

 

これらのようにGaussは後に美しい理論として整理されるようなテクニックを証明で幾つか用いているのである。また、さらにGaussが幾つもの証明を与えるほどに考察をしていたこの平方剰余の一般化に関する議論はKummerによる理想数の発想を産み、そして類体論と呼ばれる美しい理論によって描かれることとなった。

このアイディアに溢れ、時代を先駆けたGaussの証明の美しさが伝われば幸いである。

 

参考文献

原将人, 「ガウスの数論世界をゆく」, 数学書

www.sugakushobo.co.jp